子ども・子育て本部の評価とこども家庭庁への期待

子育て支援・保育・幼児教育

「子ども・子育て本部」(内閣府)の成果と影響

令和4年度までの子ども・子育て本部においては、教育及び福祉に関しては知識・経験・歴史ともに薄い「内閣府」がトップとなってコントロールしていたため、地方自治体や関係機関からの批判も多かった。厚生労働省や文部科学省も、内閣府が垣根を越えて関与してくる状況に対して、実際はやりにくかったのではないかと想像している。

また、個人的には、内閣府(特に総理)が待機児童解消に関する国民からの強い要望等を受けて新設した「企業主導型保育事業」については賛同できない部分が多かった。内閣府が建設費や運営費等の補助金を出すことで、学校法人や社会福祉法人以外の様々な経営主体が「保育分野」に多数参入することになったことも「保育の質の確保」という点で懸念した一要素である。

待機児童の解消のために必要な要素は「保育士の確保」、「保育スペースの確保」、「給食の確保」などであるが、企業主導型保育事業という施設の新設を行うことで、保育士や調理員の奪い合いという問題が各地方自治体で生じたという事実もある。

数年間経過後、出生数の激減という状況もあり、結果として、一気に待機児童問題は概ね解消した状況となっているが、今度は、一転して、幼児の減少に伴い、一部の施設では増加しすぎた保育定員に空きが生じ始めててきている。それを懸念しているのか、保育要件(保育の必要性)に関係なく、保育施設を利用できるような制度にするよう検討が進められている。

幼児教育及び保育施設の競争の激化、保護者(利用者)の選択と契約

前回ご紹介したとおり、戦後の昭和22年から平成27年度までは、基本的には、文部科学省が設置した「幼稚園」と厚生労働省が設置した「保育所」の2極化であった。(※一部、旧認定こども園、認可外保育所、障がい児サービス等あり。)

現在は、幼稚園、幼稚園型認定こども園、幼保連携型認定こども園、保育所型認定こども園、保育所、企業主導型保育事業、認可外保育施設等の他、障がい児の通所系サービス事業も進展し、多種多様の設置主体による乳幼児向けの施設及び事業が展開されている。

長い歴史のある社会福祉法人や学校法人にとっては、これまでのライバルが公立の施設だけだったものが、株式会社やNPO等が多数参入してきたことを喜ばしいとは感じていないと思う。

しかしながら、強い経営理念を持った企業や福祉提供意欲を持ったNPO等の参入により、これまでの独占的な立ち位置だった存在から、より専門性の高い施設への転換を図らざるを得ない状況となっていることは「利用者目線」では重要な部分とも言える。言い換えれば、少子化が進展する中、サービスの質の低い施設は淘汰される基本的なシステムを内閣府が作り上げたとも評価できる。(※新制度の基本理念は保護者と施設の「契約」である。)

すなわち、保護者(利用者)自体が、各種施設の目的や特徴を十分に理解し、納得の上で、当該施設と契約を行い、サービスを受ける時代になったということで、選択肢が複数あるのは素晴らしいと思う。保護者(利用者)が選択肢を間違えば、納得した幼児教育・保育サービスを受けられないこととなるが、契約とはそのような性質(自己責任)であることも理解すべきかもしれない。

「こども家庭庁」への期待と懸念事項

周知のとおり、令和5年度からは内閣府がトップだった「子ども・子育て本部」から新設の「こども家庭庁」に業務が引き継がれた。現時点での効果としては、わかりにくかった国の所管や担当が概ね一本化されてきたということだ。

しかしながら、本気でやるのであれば、「こども家庭庁」ではなく「こども家庭省」として、厚生労働省や文部科学省と同等の省として位置づけてほしかった。ただし、こども家庭庁が扱う各種事業の基本となる法律は厚生労働省所管の「社会福祉法」や「障害者総合支援法」、文部科学省所管の「教育基本法」や「学校教育法」であるため、これらの基本法の改正についてはこども家庭庁の独断で実施することは当然ながら困難である。

また、こども家庭庁は、社会的な問題となっている「いじめ」、「虐待」、「ヤングケアラー」等の対策や解決についても所管しており、これらについては、教育現場、福祉現場との連携が極めて重要であるため、結果として、厚生労働省や文部科学省との連携と強力関係は欠かせない。

そのような意味では、内閣府がトップの方が施策は進みやすいような気もする。庁が省に指示を出すのは大変だと思うが、子どもたちの幸福のため子ども家庭庁には最大限の努力を期待している。

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